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1980年代後半以降欧米を中心として、食品中での微生物の増殖、死滅などの挙動を数学モデルを用いて予測しようとする研究が活発に行われてきた。この研究は予測(食品)微生物学と呼ばれている。その目的は食品の製造から流通、消費に至る全過程で有害(病原および腐敗)微生物の挙動を定量的に解析・予測することによって、食品の微生物学的安全性を確保することである。増殖および死滅による微生物数の変動に対して純粋に理論的な数学モデルを作り上げることは不可能であるため、予測微生物学ではそのモデルがいかに実際の微生物の挙動にフィットするかが鍵となる。
WhitingとBuchananは、予測微生物学においてよく使用されている増殖モデルを、その内容から3つのグループに分類している(1)。すなわち、第1段階としてある環境中での菌数の時間的変化を表す基本モデルが考えられ、第2段階として各種の環境条件によって基本モデルの各パラメ−タ値がどのように変化するのかを表すモデル、第3段階として第1、第2段階モデルを統合した最終的モデル、すなわちエキスパ−トモデルがある。
増殖の基本モデルとして、ゴンペルツモデル、バラニーモデルが国際的によく知られ、エキスパートモデルの中でも実際に使われている(2,3)。しかし、これらは一定温度下では有効であるが、変動温度下では必ずしもよい予測はできない(4)。そこで最近、藤川らは生物個体数を表すために以前から使われていたロジスティックモデルを基に新たな増殖モデルを開発した(5)。本モデルは一定温度および変動温度に対して予測可能であり、現在、液体中、固体表面および内部での大腸菌などに適用できている(6,7)。さらに牛乳中の黄色ブドウ球菌の増殖とエンテロトキシンの予測もできた(8)。今後、さらに多くの食品有害微生物に対するデータを集め、検討する必要がある。
さらに、腸炎ビブリオについては、上記の環境要因を考慮したモデルを開発した。すなわち、温度以外に各種の食塩濃度および水素イオン濃度(pH)条件下での本菌増殖予測が可能である(新ロジスティックモデル(腸炎ビブリオ版)エクセルマクロプログラム)。ただし、ここで温度は定常温度である。
現在、国際的によく知られている予測微生物に関するデータベース、エキスパートモデルについて概観する。
これまでエキスパートモデルとしてイギリス政府主導によるFood MicroModel、アメリカ農務省の後述するPATHOGEN MODELING PROGRAM (PMP)などがあった。両国は最近、食品中の微生物挙動に関するこれまでのデータをデータベース化し、共有・統合してWeb上でデータベースComBaseを無償で公開した。現在ComBaseは病原細菌、腐敗細菌を合わせて3万件以上のデータを集録している。
ユーザーは、菌種とともに温度、pHなどの各種環境条件を入力すると、その条件に適合したデータ数、データ元(論文タイトル)、具体的データ内容(図表)が即座に表示される。予測結果はエクセル形式でダウンロードすることができる。
Growth Predictorは前述したイギリスのFood MicroModelのデータを基に作られた予測プログラムである。使い方としては、モデル(対象とする菌種)および温度、pH、塩分濃度(あるいは水分活性)などの各種環境条件を入力すると、その条件に適合した予測結果が即座に図表として表示される。ここで「生理学的状態」という項目に数値を入れなければならない。値がわからない場合は自動的に文献の値が使われる。ただし、本プログラムの予測は液体培地中での場合しかできない。
本プログラムは改良が続けられ、現在は第7版である。増殖以外に、熱死滅、常温での死滅、放射線照射殺菌、ボツリヌス菌増殖など各種の目的に使用できる。使い方はComBase、Growth Predictorと同様に、菌種、環境条件を入力すると、その条件に適合した微生物挙動を即座に表示する。同時に使用した文献も表示される。
ただし、以上のべたプログラムで適用できる温度は一定温度のみである。最近、ComBase内にGrowth Predictorを改良したComBase Predictorという、バラニーモデルを用いて変動温度にも対応するプログラムが作られた。
新ロジスティックモデルプログラムの対象菌種は大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオの3種である。このプログラムの最大の特長は変動温度に対応できる点である。製造から流通、消費までの温度履歴を入力すれば、それに応じた増殖を予測する。
その使い方はまず、菌種を選択後、初期菌数を入力する。次に温度履歴、つまり温度と時間を1組として温度変化に応じて入力する。実際の温度測定データがあれば、それを使うこともできる。次に予測ボタンを押すと、その温度履歴に対応した予測結果が即座に表れる。牛乳中の黄色ブドウ球菌についてはそのエンテロトキシン生成量も予測される。また、指定した時間での予測した菌数、毒素量も表示できる。
さらに、腸炎ビブリオ版ではその環境条件(温度、塩分濃度、pH)、初期菌数および保存時間を入力すると、その条件下での増殖予測曲線が表示される。また、指定した時間での予測菌数および指定した菌数に達するまでの予測時間も表示される。
上記の各種プログラムを使用するに当たって、次のような注意事項が考えられる。それは予測した数値は参考値であり、その数値が直接ユーザーの対象食品に適用することはできないことである。予測値は客観的な値ではあるが、個々の場合にそのまま当てはまる保証はない。より近い値を得たい場合は対象食品を使った実験が当然最も良いが、そのためには相当の時間、費用が必要となる。それが上記のプログラム、データベースを用いると(無料で)瞬時に参考値が得られる。もし、実際に実験を行う場合も予測値を参考にすることで、かなり実験の省力化ができると考えられる。
新ロジスティックモデル エクセルマクロプログラム(大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ版:温度)
新ロジスティックモデル エクセルマクロプログラム(腸炎ビブリオ版:温度、塩分濃度、pH)![]()